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第5回 持続的成長のためのすぐ出来そうで なぜか実施してない営業管理の7つのヒント

コラム「経営では利益とお金とどちらが大切か?」

1.機会損失の管理による増収化戦略

次年度の売上予算の策定にあたって、多くの企業は新規受注開拓に熱心だが、それとは逆に、失注案件は、組織全体できれいに水に流して、次年度は気持ちを入れ替えて、予算達成の夢を見ている営業部門が多い。

しかし、昨年と同様また失注が繰り返され、受注体質はなかなか身につかない。

一度は徹底的に過去の失注実績を自社で恒常的に発生する機会損失として認識し失注原因を分析し、失注原因を解消出来たなら、確率的にどの程度受注額が増加できるかを検証することが効果的でないだろうか。

プロ野球の4番バッターでも、ヒットの確率は3割程度である。4番バッターなみの営業力のある企業の年商が30億の規模であれば、失注額は機会損失としても70億もあるわけで、実質的なビジネスのボリュームは年商100億もあることになる。

新規受注を目指すよりも通いなれた顧客の失注を減らすことの方が労少なく増収効果は数倍以上高いのではないか?

不思議なことに受注は営業の栄誉であり、顧客との付き合いは密になるばかりであるが、一方失注案件は営業の恥であり、それまでの努力は再活用で営業資産として活用されることなく次世代にも伝承される機会はほとんどない。これ自身も大きな機会損失である。競合他社の失注スタイルも同様とするなら、この実態を逆手にとって毎年度ごとの失注要因を組織的に分析し、失注要因から解消策を想定し確率的に次の受注に好転するプロセスを構築すべきであろう。まずトップやトップダウンによる営業マネージャーの意識改革と、失注要因解消を起爆剤にした営業スタイルのドラスティクな改革が必要である。

図表1を参照して頂きたい。

図表1:失注の損失実績を次期予算化好転へ
図表1:失注の損失実績を次期予算化好転へ
© ファイルース青柳六郎太 2021

2.ボトムアップによる営業予算積み上げ法

個別受注の成功要因と失敗要因から、次年度の予算設定方針を識別する。

まず最大の改善事項は失注を記録することから始めなければならない。

成功からはそれほどの学習材料を得られないし、成功だけでは未来への持続的発展はない。失敗や失注は貴重な営業資産である。

過去の受注実績を見ると、特定日に極端に受注が落ち込んでいる。その理由は、偶発的な受注の阻害要因があったのではないか。例えば、物流上の事故があったとか、台風など天候の悪化があったとか、また、極端にある日の売上成績が良かったとか、例えば今年開設された学校の入学式があったとか、ライバル会社の工場が事故で休止した日などは、当社の売上が異常なピークを示すのである。

売上成績はこのような特殊な要因があるものだ。営業実績を付ける担当者は、売上の平均値を大きくかく乱した要因に注意し、あらかじめ指定されたマークを実績表に注釈として加えて頂きたい。次年度の予算を見積もる時は、このマークに留意して、このような特別理由の実績値を、平常時の実績に置き換えて、再度予測をし直す必要がある。これを正規化作業と言っている。正規化した実績表から、次年度の売上を予測してほしい。休日や季節変動も、このように実績値を正規化すべきであろう。

図表2:ボトムアップによる売上予算の積上プロセス
図表2:ボトムアップによる売上予算の積上プロセス
© ファイルース青柳六郎太 2021

3.既存顧客と新規顧客の色分けによる案件管理の識別

大量の受注実績データから、固定客と一見客を識別し、色分けすることで現場思考の顧客管理を行うことなどは、意外と行われていない。

データの大量化に埋没し、コンピューターシステムを活用しながらも、面前に20年来の固定客がいるのに営業担当者が気付かずに提案を放置していることが多い。

固定客か一見客かが見てわからないような管理では、コンピューターが立派でも顧客指向の経営をやっているとは言えない。

顧客管理やCRMでは、様々な管理手法が開発されているが、色分けによる、目で見てわかる管理が実施されるべきであろう。

ひとつの方法は、道路の信号に習って、昔から付き合いのある累積利益の多い得意先情報はグリーンで示すこと、そして新しいお客はブルーで示す。そして最近来なくなった、又は売上が減ってきたお客はイエローで示す。取引がこの1年、全くなくなった客はレッドで示す。もし、来期の予算編成でレッドやイエローの得意先で、受注構成を読んでいるようなら、予算立案者は失格と言えよう。受注案件の審査にも使えて、受注成績は確実に向上するであろう。

3.既存顧客と新規顧客の色分けによる案件管理の識別
© ファイルース青柳六郎太 2021

4.過去の失敗を管理して来期予算でどう回復するか

過年度の売上実績をもとに見るときに、やみくもに前期実績100%改善とか必達とか聞こえの良い予算数値は信頼できないことが多い。そのような上司の顔色を伺う、その場しのぎの忖度予算が多く見受けられる。このような忖度予算を回避するために、前期の失注実績を担当者に臆せず報告した者にはインセンティブを付けて、モチベーションを向上させる。失敗を恥とせず、むしろ失注の的確なフィードバックを栄誉とする風土構築を期待したい。

5.製品世代別売上げ構成比をどうやって見える化するか

年々売上が、低下する理由に、販売製品の鮮度が低下しているケースが多い。
製品ライフサイクルの時系列管理が販売実績情報の管理の中で行われていないからだ。
新規に上市した製品も、数年も経てば、顧客目線では新製品とは言えない。
上市されてから2年以下の新製品は売上構成を20%以上に保ち、常に製品の上市鮮度を保っておきたいものだ。

販売実績から、製品ごとに社内の識者が、品番別に市場への投入履歴を年度ごとに棚卸するのは人手不足のなか手間がかかるものだ。

そこで、中小企業でも手間を掛けずに製品別鮮度管理を次のような方法で行って実効をあげていただきたい。

自社生産製品は当然のこと、他社からの仕入商品についても、市場への投入時に、投入年月日を品目マスタに登録するように基本的な作業を行うことである。

これだけのことで、毎年の棚卸時に、投入世代別構成比が見える化でき、売れ行きの落ちてきた既存製品の販売ラインからの撤退を意思決定できるのである。販売キャンペーンにも鮮度の低下した候補製品の抽出作業が容易になる。

旧世代製品のマークダウンや会計的な簿価の評価損計上も工数をかけずに合理的に実施できる。

6.ベテランと新人の売上げノルマに差をつけているか

総員100名の営業要員への受注ノルマは、実力に応じて差別化しているだろうか。受注能力は職位に応じて画一的に付けられるものではない。ある企業の要員別受注予算の設定は、直近の受注実績を正規分布して、分布に応じた受注能力を認識している。

昨年度の実績では、実績偏差値-1σ未満のワーストクラスは17人で、平均受注実績は1人当たり1.5百万であった。-1σ~中位点までの並クラスは33人で平均受注実績は1人当たり3.5百万であった。中位点から+1σまでの上位クラスは33人で平均受注実績は1人当たり5百万であった。+1σ以上のベストクラスは17人で平均受注実績は1人当たり7百万であった。これを合計したら現状の総受注額は426百万であった。営業人数の分布はほぼ正規分布に近い人数構成である。

この実績分布から、1年経た現況で、今期予算はワーストクラス、並クラス、上位クラスは、ワンランク上の層別の昨年度の実績平均受注額をノルマにすることにした。

ワンランク上の実績迄は努力で成果は出せるだろうというモチベーション付けであった。但しベストクラスの実績は難易度は高いので、ノルマは据え置いた。

この結果、ワーストクラスから、上位クラスまでは、昨年度のワンランク上の実績をクリアし受注増期待値は576百万で増加がみこまれた。達成されれば、150百万増加で売上増加率は35%となる見込みである。

図表3:偏差値分析による改善見込み分析イメージ
図表3:偏差値分析による改善見込み分析イメージ
© ファイルース青柳六郎太 2021

7.製造部から営業部への社内売上価格決定方法

中小企業ではあるが、A社は、製造部と営業部で会社への貢献利益を明確にする部門意識が高く、社内売価制をとることにした。製造部長は、自部門の業績を有利にするため、製造部門の原価に利益を載せて、営業部に販売することを主張した。同業界では、製造部門原価+製造部門利益=製造売価とする方式が、事例では多かった。しかし営業部門は猛反発で、それでは製造部門では原価に厳しさが無くなり、自分らが赤字に甘んじるしかないと、会社を辞めるという社員まで現れ始めた。そこで困った経理部長は、会社の外部からの利益を、両部門の公平な付加価値の割合で山分けをする方式にしようと社長の一声で付加価値分割法で社内価格を決める方法に意思決定した。

製造部の付加価値は製造原価から材料費を控除した加工費にした。材料費は材料メーカが作った価値で、カウントには入れないようにした。営業部の付加価値は販売費ー委託配送費で計算した。

昨年実績では、外部への売上高は240円で売上原価は120円、販売費は30円営業利益は90円であった。従って90円を製造部門の付加価値40円と営業部門の付加価値20円の比率で山分けすることとなった。工場への配分利益は60円となり、工場は営業に原価120円に工場利益60円を加算して180円で販売する計算となった。

図表4:製造部から営業部への社内売上価格決定方法
図表4:製造部から営業部への社内売上価格決定方法
© ファイルース青柳六郎太 2021

筆者プロフィール

青柳 六郎太(あおやぎ ろくろうた)氏

一般社団法人 国際会計コンソーシアム副理事長
税理士・中小企業診断士

■経歴
1970年早稲田大学第一政治経済学部卒業後、日本電気株式会社入社、情報処理事業部門で大手流通業・製造業・サービス業のソリューション、および経理・原価計算等の経営管理ソリューション企画開発、コンサルティング業務に従事した。
2002年に日本電気在職中、専修大学大学院で原価計算論の客員教授兼務、2004年に退職後、ERP研究推進フォーラムの業務研修講師として活動し、2012年から一般社団法人 国際会計コンソーシアム理事、エイキューブ総合会計事務所パートナー、ワクコンサルティング株式会社のディレクターコンサルタントを勤める。有限会社ファイルース代表、IT経営パートナーズ協会監事、税理士、中小企業診断士、システム監査技術者

■専門分野
儲けるための管理会計・原価情報の活用、決算日程短縮の実践コンサルティング、業務プロセス全域のKPI設計、システム要求・要件定義、設備投資のための補助金申請支援認定支援機関、税理士業務

■筆書
中堅企業のキャッシュフロー経営(日本工業新聞社)、ERP活用による経営改革の秘訣(リックテレコム共著)、キャッシュフロー生産管理(同友館、上岡恵子博士と共著)キャッシュフローによるIT投資効果評価に関する論文:平成28年度 経済産業大臣賞受賞

青柳 六郎太(あおやぎ ろくろうた)氏

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