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第3回 物流事業者からみた物流2024年問題へのアクションについて

物流2024年問題

はじめに

第2回では荷主の目線に立ち、2024年問題に対するアクションについて言及しました 。第3回では物流事業者の目線から述べていきたいと思います。
物流事業者は規制強化の影響を直接受けており、人手不足等も相まって厳しい状況です。一方で、宅配クライシスや世界的パンデミックの影響もあり物流自体の重要性が再認識されています。このような 状況下で、物流事業者としては「収益適正化」「運送効率改善」「ドライバー雇用の確保」の3点からアクションが必要であると考えます(図1)。
どのような考え方で進めれば良いのか、以下で詳しく解説します。

物流2024年問題とは
図1 株式会社日本能率協会コンサルティング作成

1.収支適正化

1-1.未請求分の見直し

多くの物流事業者では商慣習や顧客との関係性もあって荷主へ請求すべき項目が請求できていないことが問題となっています。そのためには、現状運賃の原価構造を把握し、何が請求できていて、何ができていないかを明らかにすることが重要となります。

1-2.実態に即した原価・運賃の見直し

次に注目すべきは時間推移です。請求する運賃の明細項目が明らかになっているものの、項目自体が時間の推移に伴って変動している分を反映できていないケースがあります。人件費や車両費、燃料費などの原価は、時期によって変動するため、これらを状況に応じて運賃に反映することが重要です。

まずは、これらの原価を詳細に分析し、価格変動に応じた運賃設定を行う必要があります。具体的には、ドライバーの労務費や車両費などを定期的に見直し、その都度運賃に反映する仕組みを構築することが求められます。

1-3.サービスの見直し

契約上明記されていないサービスが存在していることも問題です。例えば、荷待ち時間や付帯作業などが無償(厳密には運賃込みのような位置づけが近い形)で提供されています。これらのサービスについては対価を請求するか、あるいは請求しないという方針を定めることが重要です。対価をいただく場合には、実際にどれだけの工数がかかるのかを実態をベースに把握し、原価設計を行う必要があります。

2.運送効率向上

2-1.運送効率向上の視点

2024年問題をはじめとする規制強化により、現行のサービスレベルを維持することが難しくなっています。このため、限られたトラックやドライバーのリソースの効率を最大限高めることが必要です。ここからは、運送効率を高めるポイントを紹介します。1つ目は「車両を動かせているか」、2つ目は動かせていたとしても「効率的に動かせているか」です。重要な3つ指標と併せて解説します(図2)。

運送効率向上の考え方
図2 株式会社日本能率協会コンサルティング作成

2-2.車両操業率の向上

まず1つ目は車両操業率です。これは自社が保有している車両のうち実際に稼働している車両の割合を示す指標です。現状、多くの物流事業者では車両の稼働状況にはバラつきがあり、動いていない車両も散見されます。

要因は様々で、物量の波動やドライバーのシフトの兼ね合いなどです。これを改善するには、過剰な車両の売却といった固定設備自体の調整やドライバーのシフトを再編成し、車両の稼働率を高めるために最適な配置を行うことも有効です。さらに、繁忙期や急な需要に対応するため、外部のスポットドライバーの活用も考えられます。

2-3.実車稼働率の向上

実車稼働率とは、顧客の荷物を載せて運んでいる時間が、総時間のうちどれくらいかを示す指標です。荷物を積んで車両が走っていない時間をいかに短くするかが鍵となります。車両が走っていない時間には、待機時間や積降作業の時間があります。

昨今では管理者としてしっかり実態を把握していること自体が重要で、システム等を活用しながらまずは、車両が走っていないときに何が起きているか可視化が必要です。実態が把握できたとして、待機時間や積降の効率に関わる荷姿の問題は荷主側の影響が大きいため、協力して改善策を講じることがポイントとなります。

例えば、事前に配送ルートや積込作業を計画し、スムーズに作業が進むようにすることで、待機時間を短縮できたり、一貫パレチゼーションや積込作業の標準化により、積込時間を短縮したりすることで実車稼働率を高めます。

2-4.積載効率の向上

積載効率とは、車両の積載量(重量・容積)に対し、実際の積載量がどれくらいであるかを示す指標です。これを改善するためには、配送回数やルートの見直しが必要です。効率的なルートを設定し、一度の配送でより多くの荷物を運ぶことで、積載効率を高めることができます。

また、荷物の形状やサイズを統一し、積載効率を向上させるために、パレット化やモジュール化を進めることも効果的です。さらに、複数の荷主の荷物をまとめて配送する共同配送の導入により、積載効率を高めることができます。

3.ドライバー雇用の確保

3-1.離職率低減

最後の観点は雇用です。物流業界は産業全体から見れば相対的に労働条件が過酷、給与水準が低いことが実態です。このため、まずはドライバーの働きに見合う報酬を提供することが重要です。

次に、適切な評価とキャリアパスの明確化です。ドライバーの業務は物理的な制約が多く、評価が難しいため、適切に評価されていないと感じるドライバーも少なくありません。

これを改善するためには、ドライバーの努力や成果を正当に評価できる制度が必要です。具体的には、走行距離や納品件数だけでなく、安全運転や顧客満足度なども評価基準に含めます。また、自己成長とキャリアの見える化を図り、将来のビジョンを持たせることも有効です。例えば、研修制度やキャリアアッププログラムを導入し、ドライバーのスキル向上を支援することも必要となります。

3-2.採用競争力強化

定着率を高める一方で、採用競争力も重要です。まず、企業のビジョンや理念に共感を得るための情報発信や求める人材像を明確化することが鍵となります。

また、働きやすい労働環境を整備し、労働条件や福利厚生を充実させることも重要です。具体的には、勤務時間の柔軟化や、育児・介護休暇の整備、健康管理のサポートなどが挙げられ、採用市場において競争力の一因となり得ます。

4.まとめ

ここまでご紹介してきた考え方は関係者間の連携強化と見える化が大前提です。実績情報をシステム等で管理することで、効率的な改善策を実行するための基盤を構築します。

物流業界の各プレイヤーが主体的に行動し、物流改革を推進することが必要です。企業間の連携を強化するためには、双方で積極的なアプローチが不可欠となります。

最後となりますが、物流2024年問題は厳しい課題である一方、差をつけるチャンスでもあります。規制強化を契機に、労働環境の改善や効率化を進め、競争力を強化することも可能です。ぜひネガティブに捉えることだけでなく、積極的に企業間連携や様々なソリューションの活用等に取り組んでいただければと思います。

筆者プロフィール

刈谷 優孝(かりや まさたか)氏

株式会社日本能率協会コンサルティング
生産コンサルティング事業本部  チーフ・コンサルタント

  • 物流業(荷主/物流事業者)、製造業を中心にサプライチェーンやロジスティクス全体の改革構想の立案、物流・製造現場の生産性向上、情報システムの構築など幅広いテーマに知見をもつ。
  • BtoC業界においては主に食品小売や医療機器などの業界でマテハン導入,3PL選定,物流システム導入,LOM設計など含めた新物流センター建設プロジェクト、BtoB業界では建材、工作機械などの業界で物流ネットワーク再編プロジェクトなど複数テーマを経験している。
 
刈谷 優孝(かりや まさたか)氏

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