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第4回 共同配送

物流2024年問題

はじめに

第3回までにおいて、物流を取り巻く環境が変化していく中で、荷主や物流業界が取り組むべきアクションについて言及してきました。
第4回では、具体的な施策の一例として、共同配送に関して解説します。

1.共同配送とは

1-1.共同配送プロセス

共同配送とは、複数の企業や団体が協力して、共同で配送業務を行うことを指します。プロセスを簡潔に説明すると、1つの配送車に複数の会社の荷物を積み込み、まとめて配送先に届けるという仕組みです。
現在の物流では、各企業が個別に配送プロセスを組み、出荷準備から出荷、配送までのルートがそれぞれの企業ごとに存在しているケースが多く見られます。このような現状では、荷主側や運送事業者は自社内の限られた範囲で配送効率の向上を検討することが主流でした。
一方で、物流業界全体の人材不足や「物流2024年問題」など、環境が変化しています。このような環境下で、地域や同業種間など企業間の垣根を越えて配送効率の向上を検討しようとする施策の一つが、共同配送であると言えます。

1-2.事例

事例として、荷主側では、複数の食品メーカーが共同で物流会社を立ち上げ、共通の配送先にまとめて配送を実現した例や、特定地域を中心に商売を行っている機械部品卸売業者3社が協業し、共同配送便を設け、配送効率の向上に取り組んでいる例があります。共同配送による協業を行っている企業は、同業種や同一地域など、顧客の重複が多い点が、特徴として挙げられます。
また、運送事業者側では、西濃運輸を中核とするセイノーホールディングスと日本郵便グループとの共同配送の取り組みがメディアでも大きく取り上げられました。両社の共同配送の取り組みについては、今後、他の運送会社にも参加を呼びかけるとされています。
まだ、このような活動は限定的ではあるものの、上記のような事例は今後増加するであろうと考えられます。

2.なぜ今、共同配送の実現が求められるのか

2-1.現在の物流環境において企業に求められる対応と課題

これまでのコラムでも言及してきた内容ですが、「物流2024年問題」など、物流業界を取り巻く環境は変化しています。その結果として、業界全体の輸配送能力の低下が懸念されています。配送を依頼する荷主側や担い手となる運送事業者側も、対応が求められる状況です。

個社ごとのミクロ視点ではなく、企業間のマクロ視点で配送プロセスを可視化すると、同一の顧客に複数の荷主がそれぞれ配送を行っていたり、個社ごとの配送便が低積載状態で運行されていたりするなど、企業間が連携し、まとめて配送できれば改善が期待できる問題が多数存在します。

企業間が連携して、より効率的な配送を考える共同配送の考え方は、物流業界の全体最適を考える上で、今後求められる施策であると考えられます。

課題と対応

2-2.共同配送の実現により期待される効果

共同配送は、物流業界全体の最適化を考える上で効果的な施策であると述べてきました。一方で、荷主や物流事業者など、個々の企業に対してもプラスの効果が期待できます。

荷主側の視点では、これまで個別に行っていた配送業務を複数の事業者間で協力することにより、配送効率が向上し、物流コストの削減や、機会創出による売上増加などが期待できます。

物流事業者側の視点では、複数の荷主の荷物を1台のトラックで運ぶことが可能となるため、運行効率の向上や車両(トラック等)の空きスペースの有効活用が可能となり、さらに、人手不足対策や競争力の強化にも繋がると考えられます。

結果、それぞれの企業にとってプラスとなる効果が集まり、個社の利益向上や、CO2/温室効果ガス排出量の低減など、社会貢献活動も含めたIR向上が期待できます。

また、共同配送に参画する企業が増えることで、企業間のネットワーク構築が進み、地域や産業間の物流インフラの整備にも繋がります。

期待される効果

3.共同配送実現に向けたポイント

共同配送は、自社単独では実現できません。他社との協業が必須となります。そのため、最初のステップとしてパートナー企業を見つけることが重要です。パートナー企業としては、同業者や同一地域の企業など、自社との共通点を見つけることがポイントとなります。

この章では、上記のようなパートナー企業が見つかった前提で、共同配送の実現に向けた業務設計上のポイントを記載します。

3-1.フローの見える化

各企業で配送業務のフローは異なっており、完全に同じというケースは稀であると考えられます。そのため、まずは各企業のフローを見える化し、どこに違いがあるのかを明確にする必要があります。具体的には、入庫、ピッキング指示、出庫、配送指示、配送など、個別のフローを企業ごとに可視化することがポイントです。これにより、パートナー企業間の差異や、対応が必要な問題点を洗い出すことができます。

3-2.フローの統一

共同配送の実現に向けては、可能な限り協力企業間で業務フローを統一することが理想的です。統一することで、業務の標準化が可能となります。そのための一つの手段として、配車管理システムなど共通のデジタルツールを導入することが考えられます。

3-3.拡大に向けたスキーム確立

共同配送は、初期段階の協力企業だけでなく、拡大することでより全体としての効果が大きくなると考えられます。そのためには、拡大に向けたスキームの確立が必要です。具体的には、業務を標準化し、同一の対応が可能な企業がいつでも参画可能な体制を構築することが求められます。

4.まとめ

4-1.共同配送から企業間連携の強化へ

共同配送は、自社単独では達成できず、他社との協業が不可欠な要素です。取り組み自体は、物流問題への対応や効率化という側面が強いですが、検討過程や活動を通じて、企業間の関係性が深まるという効果も期待できます。その関係性を基に交流を続ければ、物流問題だけでなく、その他の問題や課題についても共同で解決しようとする動きに繋がるかもしれません。これは、参画企業のネットワーク構築に寄与する活動と言えるでしょう。

4-2.地域振興としての共同配送

特定の地域で共同配送が実現した場合、その地域では新たな物流インフラが構築されます。その結果、域内の競争力が高まり、商業活動が強化され、地域経済全体の活性化が期待できるのではないでしょうか。共同配送を通じた新たなビジネス機会やネットワークが地域内に生まれるかもしれません。

また、環境に配慮した取り組みや効率的な物流が、企業のブランドイメージ向上だけでなく、地域ブランドの向上にも寄与すると考えられます。

筆者プロフィール

石﨑 勇人 (いしざき ゆうと)氏

株式会社日本能率協会コンサルティング
生産コンサルティング事業本部
サプライチェーン・デザイン&マネジメントユニット コンサルタント

工作機械メーカーにて生産管理領域の業務に従事し、生産計画の立案や進捗管理、新製品立ち上げ業務に関わった後、 株式会社日本能率協会コンサルティングに入社。
生産管理領域の知見を活かし、製造現場に入り込み、計画立案~実行まで一貫した支援を強みとしている。
近年では物流領域や製造現場の生産性向上など、製造業に関連する幅広いテーマでのコンサルティングを行っている。

石崎 勇人(いしざき ゆうと)氏

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