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第5回 これからの物流・ロジスティクスの向かう方向性
物流2024年問題はじめに
これまで4回にわたって、以下の項目について連載をしてきました。
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第1回 物流を取り巻く法規制などの動きと対応方針
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第2回 物流2024年問題に対するアクション(荷主編)
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第3回 物流2024年問題に対するアクション(物流事業者編)
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第4回 共同配送の取り組み
2024年「問題」に代表されるとおり、物流・ロジスティクスにまつわる話題は下記のようにここ数年ネガティブなものが多いです。
- トラックが少なくなる
- 人が少なくなる
- 原価や運賃が上がる
- 今までのサービスが維持できなくなる…など
2024年9月現在、過去最強クラスの猛暑や記録的台風の襲来などがあり、気候変動が社会に与える悪影響も大きくなってきています。
筆者は物流、特に運輸業界の人手不足の兆しを2016年頃から観察していましたので、正直「何を今さら」感があるのは正直なところです。
おそらく向こう数年、具体的には2030年頃までは物流業界の慢性的人手不足状態は続き、運賃も上昇傾向が継続するでしょう。これは、今まで「不当な価格・サービス水準」におかれていた物流業界が正常化に向かうプロセスのひとつだと筆者は考えています。
参考までに、図1に日本の代表的な物流事業者(運送・倉庫・宅配便等)の売上上位35社を掲示します(2023年度決算ベース)。日本には現在66,000社の物流事業者があるといわれていますが、この上位35社は売上1,000億円以上です。逆に言えば、1,000億稼ぐ会社がこれだけしかない、ということでもあります。
- ※:
図で示した35社以外に、非上場で情報開示されなくなった近鉄エクスプレスなど数社が含まれると考えます。
![[図1]主要物流事業者 売上高ランキング](images/column005-1.jpg)
さらに衝撃的なのは、トラック運送会社の上位1,000社を見たときに第1,000位の売上は30億円であるという事実です(輸送経済新聞社「物流のすべて2024年度版」より)。倉庫事業者も同様の状況であると仮定すると、残りのおよそ60,000社は売上30億円以下、何なら数億円の企業が殆どであるのが日本の物流業の実態なのです。
こういった事実を踏まえて、これからの物流のあり方を考えます
1.注目すべき技術動向
1-1.輸送・配送分野
輸送分野で最も注目すべき技術は何と言っても自動運転で、法規制上は既に「レベル4:一定の条件がそろった際にドライバーを必要としない無人走行を可能とする水準」が可能となっています。
現時点で既にいくつかの実証実験などが始まっていますが、物流2024年問題を絡めて考えた場合、長距離幹線輸送の自動化が最も効果があると考えられます。自動運転技術の実用化に向けた動きは予想以上に速く、それだけ物流2024年問題への危機感が高まっているものと捉えて良いでしょう。(注1)
一方で個宅への配送など、いわゆるラストワンマイル配送への技術導入はまだそこまで進んでいませんが、この分野においては既に「運送事業者以外のドライバー参入」がかなり進んでいます。Uber Eatsなどを見るとわかりやすいでしょう。あるいはハコベル・ラクスル社など複数の配送マッチング事業者が順調に業績を伸ばしています。昔でいう求車求貨の取り組みが、マッチングツール・アプリ等の普及によって実用化されてきていると考えられるでしょう。
もちろん、第4回でご紹介した共同配送は非常に重要な取り組みです。最近では異業種5社による共配なども報じられており、いよいよ取り組みが本格化してきた感があります。(注2)
1-2.倉庫・荷役分野
倉庫・荷役分野では自動化が急速に進んでいます。毎年東京ビッグサイトで開催される国際総合物流展に足を運べば、実に様々な企業・技術が出てきていることに圧倒されるでしょう。政府もこういった取り組みへの補助金制度を拡充しています。(注3)
倉庫においては、ここ1~2年はGTP(Goods To Person)と呼ばれる仕組みが主力となっています。モノが人のところまで運ばれてくる仕組みです。PCサプライ大手のエレコム社は、大阪の物流センターを兵庫県猪名川市に移転する際に大規模な自動化投資を行ない、もともと120名必要だった荷役人員を40名程度にまで絞り込むことに成功しました。実に60%の省人化です。(注4)
運送同様、倉庫荷役も人手不足は深刻化しています。さらには外国人労働者の就労も増えてきています。自動倉庫を中心としたDX化は、多言語対応も含めて今後ますます必要性が増すでしょう。投資は数億円かかっても、それに見合うメリットが出てきているということです。
1-3.情報システム分野
運送・倉庫共に効率化を進めるためにはDXとの組み合わせが欠かせません。運送分野であれば配送管理システム(TMS)・動態管理システム・バース予約システム、倉庫分野であれば前述の自動倉庫等マテハンを制御する仕組み(WCS・WES)・倉庫管理システム(WMS)・稼働管理システムなどでしょう。
第1回でも触れていますが、人手不足に対応するための効率化を進めるためには、見える化をしっかり行うしかありません。トラックの動態や積載状況、倉庫の稼働状況や生産性を分析に耐えるレベルで見える化することは、一昔前までは大ごとでしたが、現在は安価なツール・システムが次々と出てきています。
最も重要なのは、効率・品質などに関わるKPI(重要管理指標)を明確に定め、組織の目標と連動させた上で、KPIの変化と取得データの内容がちゃんとヒモ付くような管理・分析を行なう事です。
例えば倉庫の生産性が下がったのなら、それは設備が止まったからなのか? 作業量に対して人が多すぎたからなのか? 特定の工程で(熟練度が低いなどの理由で)ボトルネックが発生したのか? など、KPI変動の原因を突き止めるために必要な情報を「見える化」しておくことが肝要です。
- 注1:
https://jidounten-lab.com/y_5928#2025(参考「自動運転ラボウェブサイト」)
- 注2:
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO82963250T20C24A8MM8000/
- 注3:
https://logisuppli.com/how-to/learning/howto-654/
- 注4:
https://www.elecom.co.jp/news/release/20230802-01/
2.各企業が取り組むべきこと
2-1.当たり前のサービスを見直す
物流2024年問題が突きつけるのは、もはや物流の改善を物流事業者だけに押しつけることは不可能である…という事実です。例えば長時間の積込・積卸は、その殆どがバラ積み・バラ降ろしや詳細に設定された積卸要件(仕分け・先入れ先出しなど)に起因するものであり、運送事業者はこれらを「サービス」として実質的に無償で荷主に対して提供してきたわけです。
改正物流2法では、荷待ち時間や付帯作業などに対し契約で料金を設定することを明確に定めており、これらによってこれまで当たり前とされてきたサービスが大きく見直されることは間違いないでしょう。
当たり前と思われている?サービスを図2に示しました。これらを見返して、荷主サイドの皆さんは取引条件を見直すきっかけとしていただきたいです。
![[図2]過剰かもしれない? 納品サービス](images/column005-2.jpg)
2-2.超人手不足社会、に備える
今後10年~20年間に亘り、労働人口は着実に減少していきます。それらの影響は、物流を始めとした様々なインフラに及んでいくものと考えられます。物流2024年問題は、氷山の一角に過ぎません。
DXや自動化は有力な対応策ではありますが、それだけで社会課題全てを解決できるわけではありません。DXにしても増え続ける電力需要との関わりが無視できなくなります。それは「インフラの先細り」と表裏一体です。
肝心なことは、いろいろなリソースが不足しつつあるという現実を我々一人ひとりが受け止めて、できることを着実に進めていくことだと思います。
荷主と物流事業者は上下関係ではありません。ビジネスを進めるための大事なパートナーです。そういった意識をどれだけの人が持てるか、物流2024年問題を含めた様々な危機を乗り越えられるかどうかは、ここにかかっていると思います。
筆者プロフィール
広瀬 卓也 (ひろせ たくや)氏
株式会社日本能率協会コンサルティング
生産コンサルティング事業本部
サプライチェーン・マネジメント&デザインユニット
兼 サステナビリティ経営推進センター
シニア・コンサルタント
主な専門領域は物流・ロジスティクス事業診断・改革提案、物流コスト管理、物流・ロジスティクス機能別改善(コストダウン・生産性向上・品質向上など)、物流・ロジスティクスシステム設計・運用、行政改革支援など多数。
特に近年は物流2024年問題を含む諸課題に対し、ネットワーク再構築や配送効率化、物流DXなど、物流改革プロジェクトをリーディングしている。
