コラム
第2回 情報システム部門の今後の役割と体制
- 中堅企業におけるこれからのIT戦略 -
2019年12月
はじめに
前回、第1回目は「IT投資見直しに向けての重要課題」として、4つの重要課題とIT中期計画への展開、IT中期計画策定時の要求事項確認のポイント、IT予算・投資マネジメントの国内状況を整理してみました。今回は4つの重要課題の第1点目の課題で掲げた「情報システム部門の今後の役割と体制」について、少し掘り下げて具体的にご紹介したいと思います。
情報システム部門の今後の役割と体制(情報システム業務改革)
ユーザー企業における情報システム部門は、業務システムの運用・保守や利用部門のサポートに、大きな負担を日常的に抱えていると言われています。また、これら負担軽減に向けたIT人材の確保や、要員スキル向上、ビジネス部門と連携したデジタル変革のための要求事項の整理など、来るDX(デジタルトランスフォーメーション)に向けた組織体制面での強化も、同時に進めて行く必要があります。
今後の情報システム部門は、業務の効率化・軽減を一層図り、企画業務等の戦略的な活動へのシフト、経営・事業活動に貢献する高度なITシステムの構築・維持、それら実践のための必要スキル習得など、情報システム部門の業務改革のための実施計画を立案する事が重要です。
実施にあたっては、まず、現状業務を可視化し標準化、効率化ポイントを明確にする必要があります。また、併せて最適な社内外リソースの配置を検討します。その上で、情報システム部門の必要スキルを整理し、スキル強化領域の明確化とスキル強化計画を策定し、具体的な情報システム業務改革を進める事になります。
DX(デジタルトランスフォーメーション)に向けた組織体制面での課題
組織課題
組織、業務改革テーマ
IT人材に必要なスキル
経済産業省(独立行政法人情報処理推進機構)では、かねてからIT人材育成に対するスキル体系を整備してきました。これは、ITのプロフェッショナルを教育、育成する際の基準として整備されたもので、現状の保有スキルを数値化して、どのような専門分野の知識やスキルを習得、強化するかの指標として用いられてきました。
現在、2008年に発表されたCCSF「共通キャリア・スキルフレームワーク」の発展形で2014年に発表されたiCD※1「iコンピテンシーディクショナリ」を用いて、タスク(業務)を軸とした業務改革や人材育成・強化が図られています。企業内でiCDの導入・活用するユーザーが増えています。2017年には、ITSS「ITスキル標準」を、デジタル時代(DX)に求められるスキルとして、「ITSS+(プラス)」が発表されました。セキュリティ、データサイエンス、人工知能(AI)、IOT、アジャイルなどの領域が補完されています。ITSS+は、従来のITSSとiCDの構成要素を取り入れた、「スキル」と「タスク(業務)」から成るとされています。iCD関連活動としては、iCD活用企業の認証制度が行われていて、その普及促進が図られています。iCDの具体的内容は、下記オフィシャルサイトを参照してください。
DXと人材育成
「DXレポート」(経済産業省)※2によれば、DX人材の育成・確保、その必要性として、デジタル技術の進展の中で、DXを実行することのできる人材の育成と確保は各社にとって最重要事項である。ユーザー企業、ベンダー企業それぞれにおいて、求められる人材スキルを整理し、必要な対応策を講じていくことが重要であるとしています。 人材確保・育成に向けた対応策としては、アジャイル開発の実践がユーザー企業においても人材育成につながる、自社プロジェクトの産学連携(AIやデータ活用の共同研究と実践)、2018年度から開始された、第四次産業革命スキル習得講座などの習得があげられています。
DX人材の育成・確保
情報システム部門の業務改革を具体的に取り組む方法
情報システム部門の業務改革実施計画策定手順として、下記8項目の計画策定手順の概要を示します。
ポイントとしては、1.実施準備としては、特に上位方針確認がポイントとなります。2.適用方法の確認では、iCDタスクの構成、iCDスキルの構成など、適用方法の確認を行っていきます。3.現状の業務内容確認では、作業月報などから傾向把握を行います.4.現状課題の整理では、業務課題の因果関係の整理を行います。5.目指す姿・タスクの整理ではiCDを参考に新タスク一覧を作成します。6.対応策の具体化では、新タスク移行に向けた具体的解決策の整理を行います。7.タスク別必要スキル設定では、タスクと必要スキルのマッピングを実施します。
そして、8.スキルアップ計画策定として、情報システム部門の役割・メンバ別スキル対応表の整理を行ない、実践に移していきます。具体的には、実行計画書としての取りまとめを行い、年度および中期計画レベルでの戦略に落とし込み、個別活動計画に展開することになります。
1.実施準備
業務改革の実施準備
上位方針確認
例(1)戦略・企画へのシフト、(2)業務効率化・標準化、(3)稼働安定化、事業継続対策強化 |
2.適用手法の確認
手法の内容確認
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3.現状の業務内容確認
現状業務内容の調査と整理
達成度確認
例(1)企画・戦略業務のシフト状況、(2)開発、運用、保守に関する業務量比率 |
4.現状課題の整理
業務課題の調査と整理
達重要課題の抽出と解決策の立案
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5.目指す姿・タスク定義
新タスクの定義
新タスクの現状レベル、および目標レベルを設定
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6.対応策の具体化
新タスクに移行するための具体策立案
例
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7.タスク別必要スキル設定
タスク別必要スキルの洗い出し
役割定義
役割と新タスクのマッピング
各メンバと役割のマッピング
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8.スキルアップ計画策定
役割・メンバごとの必要スキル整理
メンバごとのスキル棚卸
部門のスキルアップ方針策定
メンバごとのスキルアップ計画策定
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情報システム部門の業務改革により期待できる効果
業務改革実施計画とその取り組み結果による「期待できる効果」は、全体面では、情シスの役割が明確化され、結果、やるべき業務の明確、役割の整理、企画等の戦略的業務へのシフトが可能となります。業務面では、タスク、役割の定義が明確化、業務の標準化が図られます。iCDベースでの新タスクに対するレベルが明確化、タスク対応力、強化策の具体化と優先順位が明確になります。スキル面では、タスクとスキルの関係付け、個々人ごとのスキルアップ計画が策定され、新タスク遂行に必要なスキル、現状のスキルレベルと到達すべきスキルレベルが整理されます。そして、個人別のスキルアップ項目、および到達すべきスキルレベルが明確化され、中期的スキルアップ計画が立案できます。
テーマ | 期待できる効果 | |
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全体 | 情報システム部門の役割 |
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業務面 | 新タスクの定義 |
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役割の定義 |
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業務の標準化 |
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スキル面 | タスクとスキルの関係付け |
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個々人ごとのスキルアップ計画策定 |
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まとめ
情報システム部門は、やるべき業務が整理されていない、日常業務に追われて残業も多い、業務のやり方が属人的、業務部門と情報システム部門との役割が不明確、中期的な計画が立てられない、企画業務など戦略的な仕事にシフトできていない、メンバのスキルアップやキャリアパスがはっきりしていないなど、多くの課題が山積されています。
これら課題解決(情シス業務改革)を行い、やるべき仕事→明確な方向性→目標をもった仕事を明示的に整理することで、結果として経営に貢献できる情シスへの変革をもたらすことができると考えています。
そして重要テーマである、来るDX(デジタルトランスフォーメーション)に向けた具体的活動テーマの設定、組織体制面での実行体制の強化を行う事ができると思います。
今回は、IT中計策定における4つの重要課題の第1点目の課題で掲げた「情報システム部門の今後の役割と体制」について具体的活動方法にご紹介しました。
次回は、情報システム基盤の根幹でもある「ITインフラの見直し」について紹介します。