コラム
第6回 IT中期計画策定(前編)
- 中堅企業におけるこれからのIT戦略 -
2020年4月
はじめに
前回は、企業が2025年問題やDX(Digital Transformation)への取り組みを何故行うのか…の本質課題でもある情報利活用(データ活用)について、その実践的なアプローチ方法と検討のポイント、展開方法などを整理させていただきました。 今回は、本コラムの最終回として「IT中期計画策定」について、前半と後半の2回に分けてご紹介します。
IT中期計画策定手順概要
これから紹介する「IT中期計画」は、4つのフェーズで構成されています。具体的には、(1)準備フェーズ、(2)情報収集フェーズ、(3)計画策定フェーズ、(4)計画書のまとめから構成され、以下に各フェーズのポイントを整理しています。
1.準備フェーズ
「IT中期計画」策定の第一段として、ここでは主に経営側からの全体方針を確認するためのトップインタビューを実施します。この中で、IT部門のミッション、ビジョンを設定し、本計画における実施部門の役割を明確化します。
1-(1)トップインタビュー
経営トップへ、方針とITへの期待のインタビュー
- 中期計画目標、経営の方向性(下記は例示)
(1)全体経営方針・経営戦略、(2)事業戦略、(3)営業・販売戦略、(4)人材戦略(5)品質保証など - 課題全般について(下記は例示)
(1)市場変化対応、(2)販売強化、(3)バリューチェーン体制維持・強化
(4)環境対策、(5)人材育成、(6)業務改善、(7)全体最適化など
(8)コンプライアンス強化、リスク管理強化 - 情報システム導入について(下記は例示)
(1)投資効果への期待、(2)把握したい重要な指標、(3)特に変えたいこと
(4)今後のIT利活用への期待
1-(2)IT部門のミッション、ビジョン設定
IT部門のミッションステートメント
- IT部門の意義:何のためにITがあるのか、ITの目的は何か
- 担当領域:範囲、対象領域、対象とするグループ会社の範囲
- 行動指針:心がけるべき意識、考え方、行動のあり方
IT部門のビジョン
- なりたい姿、中長期的な見通し
2.情報収集フェーズ
第二段としては、主に情報収集フェーズとして必要情報の収集を行います。企業内部から見た経営環境や事業環境、内部IT環境などの情報収集を行います。併せて、外部環境や動向などの整理を行います。具体的には下記調査例を参考ください。当社ではこのフェーズで、各種アセスメントを実施します。一例として「ITマネジメント簡易診断」として、IT部門で実施すべきタスクに関する実施状況と課題を収集し、9つの領域で診断を行っています。
また特に、「IT中計計画」の中でDXへの取り組みを検討されている方は、本コラム後半で紹介する「DX推進指標」による自己診断(アセスメント)を実施する事を推奨します。
2-(1)必要情報の収集
内部経営環境、事業環境
- 経営/事業戦略、方針の確認
- 業務改革、改善計画
- 業務課題、IT化要求事項
内部IT環境
- IT資産の状況と課題
調査例
- 主なアプリケーション調査
- 主なハードウェア調査
- システム部門の状況調査
- 委託状況の調査
- IT関連規程類の整備状況調査
- システムランドスケープの作成
- セキュリティ機能の調査
- バックアップ状況の調査
外部環境、動向
- IT動向(利用技術、新サービス)
- 法制度変更、社会的要請、IT資産の状況と課題
外部環境、動向の整理例
テーマ | 分類 | 対応方針・方法 | 時期 | 対応のための条件 |
---|---|---|---|---|
外部環境変化に伴い対応するテーマ | 法制度変更、社会的要請、IT新技術、新サービスなど | 対応に対する考え方、対処の方法 | 中計期間中の対応時期 | 対応に当たっての優先度、他の課題への影響、必要な投資など |
参考:IT動向(本格的なDXの展開)
顧客へのサービス提供における“新しい情報技術”の利用
1.スマートフォン・タブレット端末,2. ウェアラブル端末(腕時計型・眼鏡型など),3. ソーシャルネットワークサービス(SNS),4. メッセンジャーアプリ(チャット・通話),5. クラウドコンピューティング(IaaS, PaaS, SaaS),6. ビッグデータ分析,7. AI・機械学習,8. ロボティックス,9. IoT/M2M,10. センサー技術,11. ブロックチェーン,12. RPA,13. VR・AR・MR など
※出展:JISA情報技術マップより
オプション(IT簡易診断)
下記、「IT簡易診断」は当社における参考例(オプション)として紹介していますが、経済産業省がDX(デジタルトランスフォーメーション)の推進に関して自己診断を行う簡易ツールとして、「DX推進指標」を公開(2019年7月)しています。これについては本コラム後半で紹介しています。
ITマネジメントレベル簡易診断
- IT部門で実施すべきタスクを『ITマネジメント』と捉え、その実施状況と課題を収集し、9つの領域で診断します。
(1)情報戦略マネジメント、(2)情報システム活用、(3)内部統制、(4)事業継続、(5)システム運用、(6)情報セキュリティ、(7)ITインフラ維持(サーバ、クライアント)、(8)ITインフラ維持(ネットワーク)、(9)業務アプリケーションなど - 情報漏えい、情報改ざん、ITサービス中断などITリスクに関する診断
- 事業継続計画/体制、予防対策/復旧対策、拡大防止策、訓練評価に関する診断
(参考)ITリスク簡易診断
(参考)IT事業継続簡易診断
3.計画策定フェーズ
第三段は、計画策定フェーズとしていよいよ本題である「IT中期計画」の取組テーマ選定を行います。ここでは、本コラム第1回でも触れた、“4つの課題(下記参照)”などや、経営や事業運営上の課題などを戦略マップ上に展開して、その中からIT中計で取組む重要課題の選定、取組みテーマのCSF(重要成功要因)の設定を行います。そして、重要課題と各CSFから、ITとして解決するテーマを“IT化テーマ”として設定します。下記に手法例のイメージとIT化テーマ(投資目的別)を例示しています。
また、これらを受けてIT化基本方針、IT化ビジョンをビッグピクチャーとして整理を行いますが、基幹系レガシー移行の課題(本コラム第4回)やデータ活用における基盤整備(本コラム第5回)などについては、全体計画(IT中計計画)から個別計画(システム企画)へ個別に展開します。
このフェーズの最終として、実施計画(ロードマップ、リソース投入計画など)の取りまとめを行います。リソース投入計画については、情報システム部門の今後の役割と体制(本コラム第2回)を改めてご参考ください。
3-(1)取組テーマ選定
IT経営に突き付けられた4つの課題(本コラム第1回より)
ITで取り組む戦略テーマ選定 ※手法例
ITの取り組みテーマ(CSF) ※手法例
テーマ(CSF) | 分類 | KPI | 目標値 | 期限 | 達成条件 |
---|---|---|---|---|---|
戦略マップを基に選定されたテーマ | 戦略整合、IT課題解決、環境変化対応など | 達成度合いを測る指標 | 中計期間中のKPI達成目標 | 達成の期限 | 達成に必要な投資等の諸条件 |
IT化テーマ(投資目的別) ※手法例
3-(2)IT化基本方針とIT化ビジョン
前提条件の策定
- 経営からの指示事項
- インフラ利用の前提条件
- ITコストの最適化
- IT運用組織の最適化
- クラウドプラットフォームサービスの活用 等
基本方針の策定
- IT化テーマを受けた主要課題別基本方針
ITコストの最適化とIT運用組織の最適化(本コラム第3回)
クラウドプラットフォームサービスの活用(本コラム第3回)
IT化ビジョン
IT化基本方針からIT化ビジョン(ビックピクチャー)としての全体像の整理を行い、さらに経営課題としての共有化を図ります。
3-(3)実施計画
ロードマップの策定
リソース投入計画
実行計画
- 実施テーマ毎に、狙い・効果/アクションプラン/費用計画効果測定指標等を設定
4.計画書のまとめ
第1フェーズから第3フェーズまでの検討結果を、「IT中期計画」として取りまとめを行い、全体レビューを実施します。また、経営会議(幹部会報告)用として、エグゼクティブサマリーを編纂します。全体構成(目次)についての設例は下記をご参考ください。
4-(1)全体レビュー
IT中期計画策定作業の成果確認
- IT中期計画書の構成(目次)
- エグゼクティブサマリー
次回は経済産業省が公開しているDX(デジタルトランスフォーメーション)の推進に関して自己診断を行う簡易ツールとして、「DX推進指標」(2019年7月)についてのご紹介をしてまとめたいと思います。
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