総務人事向け
日本ビジネスメール協会代表理事が語るテレワーク時代のメール術(第6回)
相手に信頼感を与え、仕事を潤滑にするメール術
2021年7月
コロナ禍で仕事における信頼の重要性を感じた人は多いでしょう。人は、相手の動きが分からないと不安になります。疑心暗鬼になり「なぜやってくれないんだ」「なぜ自分だけこんな目にあうんだ」とあらぬ想像をかき立てられます。その不安を拭うのが信頼です。信頼できれば安心して任せられます。信頼できれば安心して待てます。そこで今回は、信頼感を与えるメールについて解説します。
ささいなことで不信感が高まる
テレワークが定着し、出社の回数が減った、対面の機会が減った人も多いでしょう。顔を見るだけで存在を確認し、安心感を得られたこともありました。今思うと、直接会って雑談を交わす時間が仕事の潤滑油になっていたようです。テレワークだと相手が今何をしているのか分かりません。受け取る情報でしか判断できないので、報告や連絡がなければ「この人は何もしていない」と判断されることもあります。これは、部下から上司に、上司から部下にと立場を問わずに起こる問題です。仕事をしていても、伝達を怠れば、伝達を間違えば、何もしていないと思われる可能性があるのです。信頼してもらいたければ、不信感を生まないことがポイントとなります。
信頼されない行動
どんなときに「この人は信頼できない」と思いますか。メールのやりとりを例に思い返してみましょう。
- 返事がない
- 返事が遅い
- 報告がない
- 受領の連絡がない
- お礼の連絡がない
- 相談せず勝手に進められる
- 無理な依頼をされる
- 余裕のない期日を設定される
- 抽象的な指示をされる
- 依頼を放置される
- 締切日に質問される
- 命令口調
- 配慮に欠ける
- 一方的に責められる
- 理由を聞かずに非難される
似通ったものもありますが、共感できるものがあるのではないでしょうか。面と向かって話しても、誤解をしたり、疑念を抱いたりするものです。それが非対面のメールになるとなおさらです。うっかりして返事を忘れただけでも相手は「なんで私には返事をくれないのだろう」と勘繰り、原因を求めます。そして「私のことが嫌いに違いない」「わざと返事をしてこないのだ」と自己完結してしまうのです。こうして信頼は徐々に失われていきます。そうならないようにするには、不信感が募る行動を減らして、信頼できると思ってもらえる行動を起こすしかありません。不信感につながる行動を上の表でまとめたので、表とは逆のことをすれば、信頼される人に、信頼されるメールになります。
依頼メールを受け取ったら、すぐに確認して、疑問点があれば質問します。疑問点がなくても、期日までに対応すると返事をしましょう。期日が書かれていなければ締切日を聞きます。段取りをつけて、時間の余裕をもたせて依頼に取りかかります。一方、依頼メールを受け取って、期日が先だとわかると放置。そうすれば、どうなるでしょう。締切日直前になって内容を確認し、不明点があると矢継ぎ早に質問する。不測の事態にあわてふためくことにもなりかねません。相手には、依頼メールを、今はじめてしっかり読んだことがわかってしまいます。このような行動も信頼を失います。
依頼して、作業をしてもらったら、お礼メールを送り、やりとりを終わらせましょう。長い時間をかけて進めていく仕事の場合は、定期的に進捗を確認したり、報告したりします。互いに状況がわかると安心します。この安心感が信頼を生むのです。段取りのよい人ばかりではないので、相手に期待するのではなく、自ら働きかけることが重要です。互いが放置すれば信頼は生まれません。
嘘はばれると思って行動する
メールは不確かなコミュニケーション手段なので、ときには届かないこともあります。その前提で催促しましょう。次のような聞き方を目にします。
5月10日(月)にお送りした見積書確認の依頼の件です。
ご不明な点はございませんか。
先日依頼した○○資料作成の件ですが、進捗はいかがでしょうか。
○○のご提出が確認できておりません。
すでにお送りいただいている場合は、再送をお願いします。
このような確認をされて、自分の過失で対応がもれていることに気付いたら、どのように返事をしますか。次のような返信をしたことはありませんか。
そのような依頼メールを受け取った形跡がないので、お手数ですが再送をお願いいたします。
すでに回答をお送りしているのですが、届いていなかったのですね。
再送しますので、ご確認よろしくお願いいたします。
一度くらいなら、これで言い訳ができるかもしれません。しかし、私の経験上、メールの不達が起こる可能性は1%程度です。不達が何度も続くと、恒常的なシステム上のトラブルがあるのか、はたまた相手が嘘をついている可能性が高いと思われます。本当にシステムの問題なら、解消に向けてすぐに取り組むべきです。
このような嘘をついて「うまくだませた」と思っても相手は「嘘をついているな」と悟ります。これが不信感につながっていくのです。自分の過失で対応がもれていたときは、次のように誠実な対応をするべきです。
見積書確認の依頼は確かに受け取っておりました。
対応が遅れまして、大変申し訳ありません。
○○資料作成の件を失念しておりました。
明日の12時までの対応でもよろしいでしょうか。
結局、信頼を落とす原因は「不誠実な行動」に集約されます。誠実に対応して、二度とそのような状態にならないように改善するのが一番です。
一方的な連絡は不信感につながる
報・連・相をしっかりして、密に連絡を取っていたら信頼を高めることができます。それでは連絡の回数を増やせばいいのかというと、そうではありません。双方向のコミュニケーションが必要です。周知したいことがあるが、個別に伝えるのは面倒だから、メールを送っておこう。このような通達のメールは返事を求めないものです。そのため、コミュニケーションのズレが生じやすいといえます。
例えば、メールで依頼したら、相手から受諾のメールが届く。これによって、依頼が成立したという側面があります。しかし、受信対象が10人を超え、受諾のメールを送る必要がない場合、きちんとした合意形成が行われない可能性があるのです。次のようなメールを全社員に向けて送ったとします。
勤怠管理のために○○システムを導入します。
各自手順書を読んで、来月1日よりご対応ください。
受信者は読むだけです。「一方的すぎる」と思うかもしれないし、開始日が近くなって「そんなの知らなかった」と言うかもしれません。メールで一斉に知らせるのは、全員に納得してもらい、円滑に進めるためのコミュニケーションの一環ですが、返事をしなくてもいい、読むだけのメールの場合、その目的が達成できないことがあります。そうなると、そのメールは意味がなかったといえます。
このような通達を送るときは、何度も連絡するのが重要です。そして「導入します」ではなく「導入の予定です」と言い換えたり「ご対応ください」「ご対応のほど、よろしくお願いいたします。」のように丁寧に表現したりするだけで、不快感が多少減り、抵抗や反発を防ぎます。ある企業では「~~してください」を連呼するメールよりも「~~していただけますと幸いです」と書いた方が遂行率は高かったという声も聞きます。
根回しをした方がよい人には、個別に連絡して合意しておくことも必要です。全てのコミュニケーションは、仕事を円滑に進め、望む状態にすることがゴールです。通達メールを送ることが目的になってはいけないのです。
日本ビジネスメール協会代表理事が語るテレワーク時代のメール術
いまほしい栄養(情報)をピンポイントで補給できる“ビジネスのサプリメント”
「ビズサプリ」のご紹介