コラム
製造業におけるAI活用検討の第一歩
【第4回】製造業・プロセス業における需要予測AI活用の検討ポイント
2019年5月
需要予測へのAI活用
第1回では、AIの活用に向いている例として、第1回 表2のような業務を例示させて頂きました。
今回はこの中から、「ブレのない正確な需要予測による、発注・製造の適正化」について、前回までと同様、「向いている業務か」「どんなAIがよいか」「導入までのステップ」の3点に分けてご説明します。
まず、需要予測にも、画像検品と同様、予測に向いている業務、向いていない業務があります。
その主な判断ポイントは、以下の2点です。
1つ目は、需要の変化を説明するデータを、どれだけの種類揃えられるか。
2つ目は、データ量は十分か、です。
需要の変化を説明するデータをどれだけの種類揃えられるか
ここからは、例として「アイスの需要予測」を例にとります。
発注担当者が、「明日、アイスがどれだけ売れるか」を考えるとき、何を予測の材料にするでしょうか?
恐らく、明日が暑いほどアイスが売れるでしょう。
明日が雨なら、暑くても客足が鈍るかもしれません。
TVCMを流した翌日には、売れ行きが上がりそうです。
競合が類似商品を出した翌日以降は、売れ行きが下がりそうです。
このような、目的(アイスの売り上げ)のことを「目的変数」といいます。
また、その変化傾向を説明できそうな要素(天気、CM、競合情報…)のことを、「説明変数」といいます。
この「説明変数」を、より細かい粒度で、高頻度で、網羅的に集められるほど、「精度のよい需要予測」ができます。
従来の製造業にとっては「いつ、どこで、どんな人に、どれだけ購入されたか」といった細かすぎる粒度の情報には、大きな価値がありませんでした。
そのため、過去の詳細な販売データをそのまま収集・蓄積しているケースは少なく、一定期間で消去していたり、月や週などの大きな単位でサマリすることで、圧縮しているケースが大多数です。
これでは、細かい粒度で、高頻度で、網羅的なデータを求められる「精度のよい需要予測」は実現できません。
また、収集・蓄積していても、直接取引のある卸売業からの発注情報のみでは、情報取得の頻度は少なく、情報の粒度が大きくなってしまうため、これも「精度の良い需要予測」にはなりません。 本来は、小売レベルの頻度・粒度の情報が必要となります(図9)。
まずは、自社製品の「説明変数」が何かを図8のように整理した上で、「今あるデータ」「今は無いが集められそうなデータ」「集めるのが難しいか、集めるのに高いコストがかかるデータ」に分け、今後のデータ蓄積について検討してみましょう。
データ量は十分か
次のポイントは、予測対象とする商品のデータ量です。
AIは、人間と同様、「様々なシチュエーション」を見て学習することで、予測精度を向上させていきます。
そのため、いくら説明変数が揃っていても、シチュエーション数=データ数が揃っていないと、よい予測ができません。
例えば、アイスの売上予測の際、天気情報、環境情報など、多くの説明変数を得られたとします。
しかし、もし3日分しかデータがなければ、偶然同じような晴れの日が続いてしまえば、雨の日にどのような売上になるかの予測はできません。
また、夏の3日分の気温データでは、冬にどのような売上になるかは予測できないでしょう。
ただし、このデータ量がどの程度必要かは、予測の難しさや、説明変数の多さによって異なります。
近年では、大容量のデータでも、非常に安価にクラウドストレージに蓄積できるようになってきていますので、まずはデータを捨てずに蓄積するようにしてみましょう。
以上、需要の変化を説明するデータをどれだけ揃えられるか、データ量十分か、の2点をチェックして、総合的に予測に向いている業務かどうかを見極めましょう(図10)。
需要予測の種類
前述の2点を踏まえて、予測に向いている業務と判断できたとします。
次に考えるのは、「どんなAIで実現するか」です。
需要予測において、AIには、大きく2つのタイプが存在します。
1つ目は、比較的精度は高いが、予測の根拠を説明できない「ブラックボックス型AI」です。
2つ目は、比較的精度は高くないが、予測の根拠を説明できる「ホワイトボックス型AI」です。
ブラックボックス型AI
AIといえば真っ先に挙がる「ディープラーニング」ですが、これは代表的な「ブラックボックス型AI」です※1。
ディープラーニングは、人間では理解しきれないような複雑な法則性を見つけるため、高い精度で予測できます。
しかし、逆に言えば、人間には理解できないので、「なぜその値を予測したのかわからない」のです(図11)。
高い精度の予測なら問題ないのでは、と考える方もいるかもしれません。
しかし、予測を間違えれば大きな損害を生むような場合、精度が高いといわれても、その判断根拠が不明では「どこか心配」です。
この点がネックになり、現場の発注担当者に受け入れられない場合は多々あります。
実際、AIは説明変数以外のことは考慮せずに予測するため、突発的な事故や事件、口コミによる増減など、想定外な出来事が発生した場合、何も説明しないままに、大きく誤った予測を出力する場合があり得ます。
※1.ディープラーニングでも、予測の根拠を説明するために、世界中で様々な研究が進められています。
手法によっては、ある程度の説明が可能なものも存在します。
ホワイトボックス型AI
一方で、ホワイトボックス型AIは、「今回の予測値には、気温の低さが強く影響しているが、若干、CMが悪影響を及ぼしている」など、どの説明変数が、どの程度影響した結果の予測なのかを明らかにすることができます。
このため、AIに示された影響要因が明らかに誤っている場合や、考慮されていない事象があるときに、人手で訂正することができます。(図12)
逆に、イレギュラーな事態が起きにくいような製品や、ごく稀に起こるイレギュラーな予測による損害よりも普段の精度の高い予測による利益の方が大きい場合、ブラックボックス型AIを使っても問題ありません。
画像検品のときと同様、メリットとデメリットをよく勘案して、どちらを求めているか検討してみましょう。(表8)
全体の検討ステップ
これまで、AIに関する理解を交えつつ、「そもそも需要予測AIに向いている業務か」「その業務にどんな手法を使うべきか」についてご説明してきました。
業務への導入後までのプロセスは、画像検品の場合と同様です。(図7)
この場合も、PoCを必要とすることにご注意下さい。
ここまで、製造業・プロセス業における需要予測AI活用の検討ポイントをご紹介してきました。
次回からは、故障検知についてご紹介したいと思います。
※分かり易さを優先するため、表記に一部曖昧な点や、不正確な点が含まれる場合があります。ご了承ください。