公認会計士が回答!会計・経理担当者向けペーパーレスへの取り組み(第1回)
電子帳簿保存法改正でタイムスタンプは不要?スキャナ保存はゴールではない
2022年8月
Q.
電子帳簿保存法の改正によって、様々な保存要件が緩和され、スキャナ保存においてはタイムスタンプが不要になる場合があると聞きました。タイムスタンプは、1データあたりのコストが気になるため、スキャナ保存の導入をためらう理由の1つになっていました。この改正の詳細や業務効率化における電子帳簿保存法の活用法について教えてください。
A.
(1)電子帳簿保存法の改正
令和3年度税制改正では、電磁的記録の保存要件が大幅緩和される方向で、電子帳簿保存法が改正されました。電子帳簿保存法は、自ら作成した帳簿の電子保存、自ら作成した書類の電子保存、スキャナ保存、電子取引の保存の4つを対象としています。令和3年改正では、それぞれの部分で保存要件の緩和を盛り込んだ改正が行われています。
その中でも最も大きいものは、事前に承認申請をしなくてもよくなったことでしょう。電子保存の開始の3か月以上も前に承認申請をしなければならないことは大きなネックだったと思います。というのは、4月からの新年度に向けて予算編成している1月に「わが社も電子保存をスタートしようか」と思っても、その時点で4月は間に合わないのです。
しかし、IT業界においては、タイムスタンプに関する改正にインパクトを感じる方も多いようです。スキャナ保存において、タイムスタンプを付すタイミングの緩和だけでなく、タイムスタンプを付さないでもよい取扱いが登場したためです。
タイムスタンプを付さなくてもよい取扱いとは、早期入力方式か業務処理サイクル方式が求める期間内に、当該国税関係書類に係る記録事項を入力したことを確認することができる場合には、その確認をもってタイムスタンプの付与に代えることができるという取扱いです。
ただし、電子帳簿保存法取扱通達4-28によれば、「他者が提供するクラウドサーバにより保存を行い、当該クラウドサーバがNTPサーバ(時刻同期サーバ)と同期するなどにより、その国税関係書類に係る記録事項の入力がその作成又は受領後、速やかに行われたことの確認ができるようにその保存日時の証明が客観的に担保されている場合」という例示があります。データ入力時点を客観的に証明するとなると、クラウド型のサービスを利用しない限り、タイムスタンプの省略はできません。オンプレミスでのスキャナ保存機器を導入する場合には、引き続きタイムスタンプを使用することになります。
(2)電子帳簿保存法の活用法
スキャナ保存は、
(1)納品書や請求書など大量の書面が送られてくる場合
(2)経費精算・旅費精算のように書面の領収書などが存在する場合
に利用されます。
(2)は、経費精算のプロセスを合理化してくれるメリットがあります。それに対して、(1)は購買業務など業務処理プロセスの合理化を図ろうとするものです。本来、(1)のように大量の書面をやり取りする場合には、電子取引を導入した方が業務処理システムへのデータの受け入れも容易です。しかし、現時点ではスキャナ保存に注目が集まっている印象があります。
これは、電子取引は、取引先側でもそれに対応してもらう必要があり、自社だけの判断で業務改善に踏み切れるものではないためでしょう。そのため、まずは、スキャナ保存を導入して、受領した書面を電子化して、書面を破棄していく業務効率化を実現するのです。
同様に、客先に向けて大量の書類を発行しているような場合、電子取引に移行できれば双方が業務効率化を実現できます。しかし、取引先のシステム計画にも左右される話でもあり、まずは発行した書類の自社控えを出力するのをやめて、書類の電子保存を行うという戦略もあります。
4つの電子化の対象項目を有する電子帳簿保存法は、業務処理の効率化を裏から支えるツールとして考えるべきであり、「当社もスキャナ保存を導入しよう」といった手段が目的化したりすることがないように留意していただければと思います。また、電子帳簿保存法での保存要件は、税務上認めてもらうための最低限の要件であり、会社の内部統制の構築という観点では、保存要件より厳しいルールを社内で設けるべきと考えています。元々電子データでやり取りしていた範囲については早々に対応する必要があります。