東京国際ブックフェア2015図書館・出版シンポジウム
サブコラム:忘れえぬ人々
図書館つれづれ [第16回]
2015年9月

執筆者:ライブラリーアドバイザー
    高野 一枝(たかの かずえ)氏

東京国際ブックフェア2015 図書館・出版シンポジウム

図書館が無料で貸すことで書店の売り上げ減少に拍車をかけているとの議論がある中、7月1日に東京ビッグサイトで日本図書館協会と日本書籍出版協会の主催による、「地域と生きる図書館 今、図書館が伝えているものとは」と題したシンポジウムが行われました。司会・進行は出版業界、報告は図書館関係者というユニークなシンポジウムの様子をお伝えします。

報告

まず、日本図書館協会の森理事長の挨拶に続き、司会は、総合司会の原書房の成瀬雅人氏から筑摩書房の高田俊哉氏にバトンタッチし、シンポジウムのタイトルにふさわしい図書館活動の報告がありました。

1)「市民とつくる 市民のための 市民の図書館」
 鯖江市図書館(注1)副館長 早苗忍氏

鯖江市は、メガネ、繊維、漆器の3大地場産業に特化したものづくりのまちです。鯖江市図書館は、1997年12月に開館した鯖江市文化の館の複合施設の中にあり、2014年ライブラリー・オブ・ザ・イヤー優秀賞を受賞した図書館です。残念ながら、私はまだ伺ったことはありません。

今回の話「さばえライブラリーカフェ」は、市民のボランティア団体「さばえ図書館友の会」のメンバーから「美味しいコーヒーとケーキを楽しみながら、新書の手軽さで、皆で学べる定期的な場がほしい」と提案され、実現しました。毎月1回、こちらも市民の声からできた一階の喫茶室で、図書館閉館後の19時から2時間開催されます。講師のお話を1時間ほど聴き、15分の喫茶タイムを楽しみ、45分の質疑応答タイムに入ります。コーヒーとケーキでリラックスした後ですが、かなり突っ込んだ質問攻めに遭うそうです。

テーマは粒子論、哲学、アフリカなど毎回変わり、講師も大学教授や漆器職人、会社経営者など様々です。最初こそ講師依頼に奮戦したそうですが、今は講師にも「大学の講義より面白い」と好評です。毎月のテーマの関連本は図書館に展示され、カフェの記録も冊子に残され、2013年6月には開催から9年目にして100回を迎えました。ライブラリーコンサートも開かれていて、職員と友の会メンバーが一緒になって準備します。友の会の財源は会費のみで運営されているから、言いたいことも言えるのかと。

後日の談ですが、そのほかに学校支援等、鯖江に相応した取り組みがあり、未知の世界との関わりにはワクワク感もあるとのことでした。鯖江の良さは、職員や市民に限らず、良いと思ったことは直ぐに実行するフットワークの軽さにあるのかと感じたお話でした。

2)「battenn toshokann [ばってんとしょかん]」
 くまもと森都心プラザ図書館(注2)副館長 河瀬裕子氏

熊本駅前再開発の共同企業体の一員として、図書館は指定管理運営をしています。
私も昨年お邪魔してきました。ビジネス支援センターや託児所があり、図書館の上の階にはホールや会議室もあります。図書館のカウンターから見渡せるところに中小企業診断士が常駐していて、ビジネス関係の本は半端ではなく、圧倒されます。

熊本駅前と聞くと利用が多いように聴こえますが、実は人の流れは駅から遠くにあります。図書館は「こんなことまでやるの?」と言われつつ、「でもしかし(battenn)」と、書店や様々な施設や人と連携して地域活性化につなげています。battenn図書館は、そのための工夫をした「掛け合わせ」の図書館でもあるのです。

この図書館の凄さは、「魅せる棚つくり」です。アートと本をくっつけたり、地域のイベントをしたりして、図書館に興味のない方を如何に来てもらうか工夫をしています。本活・恋活・婚活もいち早くからおこなわれ、スタッフが若いから発想が柔軟で、何よりセンスがいいのです。企業支援で生産にこぎ着けたデザートなどは、2階のわくわくカフェで食べることもできます。

地方熊本の振興にこだわった図書館です。

3)「市民とともに歩む図書館を目指して」-震災を経験してわかったこと-
 名取市図書館(注3)館長 柴崎悦子氏

東日本大震災で建物に大きな被害を受けた名取市図書館は、震災直後、職員も避難所業務に追われる毎日を続けていました。きっかけは、発生から2週間後の北海道石狩市民図書館からの図書館に特化した支援の申し出でした。

最初は断ったものの、熱い想いに押され、4月12日から石狩の職員を中心に臨時開館を目指した片づけ作業が始まったのです。そして、5月10日にBM(移動図書館)車と小さな書庫を使い臨時開館を果たしました。「たった2か月だったけど、でも、長かった!」と、話された姿が印象的でした。当時の職員はたった4人。助けられたのは、現在の名取市図書館のボランティアの出発点ともなっている市民の力でした。返却の手伝い、子どもたちのお話や除草等助けていただいたそうです。一方で、車のある方は他の図書館を利用し、貸出は激減しました。それでも細々と続けたのは、「市民に図書館を忘れてもらいたくなかった」からだと言います。

日本ユニセフ協会の資金援助や宮城県立図書館や多くの民間団体の協力の元、翌年の2012年1月6日にこども図書室がオープンしました。私が伺ったのもその後です。図書館は2018年の新館建設に向け準備が進められています。

「市民の声を聞きながら、市民とともにつくりあげたいと」と結ばれました。

4)「多様化する地域における図書館の役割」 文筆家 猪谷千香氏

猪谷さんのお話の詳細は、著書「つながる図書館」を読んでいただくのが一番ですが、従来のイメージを破る「つながる図書館」として、以下の図書館が紹介されました。

  • 「住みたい」と好感度が高く、大人進入禁止場所を持つ複合施設、「武蔵野プレイス」
  • 地域住民、博物館、学校とつながる、「高遠ぶらり」でおなじみの「伊那市立図書館」
  • 子ども未来館と併設により、授業では学べないゼミを開講する「江戸川区立篠崎子ども図書館」
  • 島まるごと図書館化とクラウドファンディングでも有名な「海士町中央図書館」
  • 国の補助金に頼らず公民連携を実現した「紫波町図書館」

最近は、特に「コミュニティ」機能を持つ図書館に期待が集まっています。キーワードは、「町づくり」、「地域交流」、「地域活性化」、「地域コミュニティ」など。図書館も「稼ぐインフラ」の時代がきています。

ディスカッション

ここまではよくある報告で、ここからが出版社と共催のシンポジウムの極意に入り、図書館への共通の質問やお互いの要望が出てきました。[図]は図書館、[出]は出版社の意味で、以下抜粋です。但し、意見はあくまで個人の意見です。

1)図書館が本を借りる場所からコミュニティ重視の場所に変化について

  • [出]:出版社からすると、やはり「知の拠点」であってほしい。

2)選書について

  • [図]:古い本が手に入らない。
    本を手にするお客様に目を向けて、借りる方も買う方も幸せになるのが一番。
    出版社は図書館や利用者を裏切らない本を作ってほしい。単行本より新書が多くなった。
  • [出]:高い本が売れなくなった。
    →[図]:予算は限られてはいるが、高いから買わないというわけではない。躊躇はするけど良いものは置きたい。
  • [図]:文庫本、複本は基本買わない。寄贈も断る。

3)図書館と書店との関係

どちらもジリ貧で、連携できていないところもあるとの共通認識の上で、利用者層にも違いがあり、双方が協力することで地域の文化が盛り上がるのではとの意見がでました。

電子書籍も話題にはあがりましたが、今一つ盛り上がりに欠けました。

質問

ここまでで、「おやっ!」と思ったことはありませんか?
文中の太字部分です、喉から手が出る程欲しいベストリーダーの寄贈本も断るのです。早速質問が出て、「地域性もある」との前置きで、答えたのは名取市図書館でした。名取市には震災前に4軒あった書店が今は1軒しかありません。地元の書店を潰したくないから、予約の順番を待てない方は書店で本を買ってもらいたいのです。勿論図書館の本も書店で買います。「図書館と書店は一緒の方向をあるいていく」。地方だからこその問題ですが、今回のシンポジウムの真髄をここに見た気がしました。

「一般市民の中には、図書館の本に税金を使うなら、納税額を減額して欲しいという意見がある。それに対しどう思うか?」との質問には、「お金では図れない、誰に対しても開かれている知のインフラ」と、図書館の必要性を説かれていました。

次世代へつなげるための人材教育については、どこも苦戦しているようです。一つは待遇の問題もあるかと思います。モチベーションを保つって難しいですよね。この問題は図書館界だけでなく、編集者も同じで、「限られたリソースの中で工夫しながらできることを頑張ってゆくしかない」と、お互いの決意表明となり、みすず書房の持谷寿夫氏の挨拶でシンポジウムは閉会しました。

出版社と図書館が同じ土俵に乗った画期的なシンポジウムでした。

~サブコラム~ 忘れえぬ人々(一瞬でK係長の信頼を失った)

長い図書館との付き合いの中では、最初から相手にしてもらえなかったこともあれば、突然思わぬ落とし穴に陥ることもありました。庶務係長K氏が図書館へ赴任され、システム更新時にもお世話になり、それなりの関係は築けていたと思っていました。ところが、何故だかある日、突然係長を怒らせてしまったのです。最初は何に怒っているのかさえわかりませんでした。

丁度幾つか物件が重なり、私のちょっとした発言に、他の図書館を優先している素振を感じたのだと思います。せっかく築き上げた信頼関係が、瞬間で崩れ落ちました。いや、もとより信頼関係などなかったのかもしれません。信頼は、「今」を大切にすることだとわかっていたつもりでしたが、誠実に対応していなかった一瞬を見破られたのです。それでも、いつしか関係が修復されていったのが救いでした。

図書館とシステム提供業者との関係は、もろくて壊れやすいものです。だからこそ、相手と向き合い、お互いを理解しようとする努力と、ちょっぴりの妥協も必要なのかなあと思います。



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    「もうすぐ二学期。学校が始まるのが死ぬほどつらい子は、学校を休んで図書館へいらっしゃい。マンガもライトノベルもあるよ。一日いても誰も何も言わないよ。9月から学校へ行くくらいなら死んじゃおうと思ったら、逃げ場所に図書館も思い出してね。」メディアにも取り上げられました。

図書館つれづれ

執筆者:ライブラリーコーディネーター
高野 一枝(たかの かずえ)氏

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