2022年、夏の和歌山(新宮市立図書館、那智勝浦町立図書館)
図書館つれづれ [第102回]
2022年11月

執筆者:ライブラリーコーディネーター
    高野 一枝(たかの かずえ)氏

はじめに

COVID-19(新型コロナウイルス感染症)の影響で延期になっていた3年越しの願いが叶い、7月の和歌山県那智勝浦の扇祭りに合わせ、熊野古道も少し歩いてきました。今回は、合間に見学してきた新宮市立図書館と那智勝浦町立図書館の報告です。

和歌山県新宮市立図書館(注1)

創立は1953(昭和28)年8月1日という歴史ある新宮市立図書館は、2021年10月3日、新宮市文化複合施設(丹鶴ホール)4階に新図書館がオープンしました。オープンして1年経っていない図書館を、栗林圭一館長と司書の道前美穂氏が案内してくれました。

芥川賞作家で新宮市の名誉市民である中上健次コーナーをはじめ、郷土資料は充実しています。驚いたのは、いただいた資料の「中上健次文学案内・新宮歩楽歩楽(ぶらぶら)マップその3」。なんと、図書館が発行していました。そして、もっと驚いたのが、マップの裏です。

中上健次作品名と作品に出てくる場所や店舗などの位置を、地図上の位置に照らし合わせて書いています。それだけ小説などの題材になっている土地だからこその新宮市立図書館のレファレンス資料でした。新宮歩楽歩楽マップは、その1「ヤタガラス弥之助の温故知新」、その2「ヤタガラス弥之助の南谷墓地案内」、その4「新宮市の民話と伝説(上)」、その5「新宮市の民話と伝説(下)」も発行されており、歴史のある街は、郷土への愛と気概を感じます。ヤタガラスの弥之助は、図書館マスコットキャラクターだそうです。

図書館は地図でも分かるように、熊野川と新宮城跡が目の前に見える場所に位置し、窓沿いの席にいたら何時間でもぼーっと過ごせそうな素敵な空間でした。

利用案内に「本を借りられる方は、熊野地方在住のどなたでも」とあるのですが、和歌山県田辺市・那智勝浦町などはもとより、奈良県の十津川村・下北山村・上北山村に、三重県の熊野市・尾鷲市など。熊野詣の熊野古道に関わる地方全ての総称が「熊野」で、熊野市が三重県であることも初めて知ったのでした。

本棚が天井まで突き抜けていて意表を突いたのは耐震構造のためだそうで、圧迫感を感じないよう上の棚に本は置いていません。また、この構造によりフロア中央部に大きな柱がなく、フロアが見通せ開放感があります。児童コーナーでは皆さんからのお便りも可愛くディスプレイされていて、行政・観光パンフレットコーナーがあるのもさすが観光地です。広い市内を、馬場のぼる氏の「とらねこ大将」が描かれた自動車文庫BM「なかよし号」が月に一度市内各地を巡回しています。

「熊野の歴史をよむ会」では、郷土の古文書解読を中心にした、分かりやすく楽しい歴史講座を年に4回ほど開催しているそうです。書庫には膨大な郷土資料がありました。

気になったのは、「東京大学コーナー」。平成29年度から市が東京大学の体験活動プログラムを受け入れ熊野関連のフォーラムを共催したのをきっかけに、連携協定を結びました。東京大学コーナーでは、先生方から寄贈を受けた本の展示・貸出をしています。

ボランティアグループ「ブック・ブック」は、2000年に実施した「図書館百周年記念事業」の「図書館百周年記念事業実行委員会」を母体として2002年に発足し、30名ほどの方が旧図書館でも読み聞かせ等の読書推進活動以外にも、書架の整理や、中庭の手入れ、本の修繕など様々なことに協力されていたそうです。さらに、昨年2021年の新館移転作業の際には71名の方が登録し、4月下旬~8月末まで、のべ908人の方に作業されたとのこと。地域の協力があってこそのエピソードは、佐賀県の伊万里市民図書館や栃木県茂木町ふみの森もてぎ図書館に通じるものを感じました。とはいえ、同行した司書からは、ニーズや予算との絡みもあるでしょうが、新聞を含めた商用データベースや視覚障害者サービスがないのが残念との意見もありました。後日、道前氏に尋ねたら、幅広い年齢層の方が利用していることもあり、規模の小さな図書館にはデータベースの導入は費用面で中々ハードルが高いとのことでした。また、視覚障害者サービスについては、新館オープン時に音声拡大読書器「よむべえ」を導入し、旧図書館の時から今も和歌山県立図書館から毎回100冊程度の大活字本を4か月程度の長期で借受し、利用者に貸出をしているそうです。

見学の際にホールの稼働実績をお聴きしたのですが、帰った後に、「2021年ホール稼働実績:全日59.4%、土日祝:72.2%」と回答いただき、益々もって誠意を感じ、市民を含めた、これからの活躍が楽しみな図書館です。

和歌山県那智勝浦町立図書館(注2)

単なる見学者一行にもかかわらず、町の議会事務局長である寺本尚史さんからの紹介ということで、岡田秀洋教育長、毛利秀基生涯学習課長、久保敏晴図書館館長が出迎えてくださいました。(那智勝浦町の活動は、図書館コラム78回(注3)でも紹介したことがあります)。図書館は1979(昭和54)年4月17日竣工とかなり古く、40周年の際には塩尻市立元館長の内野安彦氏の講演会を催しました。

館内に入ると、まずは今月の新着図書が鮪の手編みのモチーフと共にお出迎え。ここは生マグロの水揚げが日本一のマグロの町。郷土資料には地域の水産のメインの産物として、隣の太地町の鯨とマグロの2つ取り上げて棚を作っています。(余談ですが、前日の夜は鯨とマグロの部位を食べつくしました)窓辺に添っている学習テーブルは、旧町立病院が新病院に移転する際、旧病院の病室から袖机や椅子などをもらってきたものです。棚もスチール棚で、児童コーナーは低い棚がない分、上を開けて見通し良い工夫をしていました。ウイルス対策の席の仕切りも全てお手製で、ひと手間を惜しまない姿勢に、なんだかほんわかしてきます。

絵本の読み聞かせ活動は盛んです。実は那智勝浦町にはひょんなことで知り合った伊藤松枝さんがいます。伊藤さんは、25年前に図書館で読み聞かせを始めた那智勝浦町初の読み聞かせボランティア「絵本の会 よむよむ」のメンバーです。こんな図書館になったらいいなぁ~と、図書館でのボランティア養成講座や「なちかつ未来塾」と称した大人の図書館の学びの場を企画してきました。現在は、那智勝浦町立図書館の図書館協議会委員であり、本人自称「読み聞かせボランティアのおばちゃん」だそうです。ご主人は、前日に私たちが見学した扇祭の熊野那智大社の禰宜(ねぎ)。「烏帽を被っていた赤袍(あかほう)の方が!」と、あとで知りました。

館内には、健康や防災などの暮らしに役だつテーマ展示のほかに、季節に合わせたイベントに「よみきかせカーニバル」というのがあって、伊藤さんにお聞きしました。那智勝浦町には、小さなグループまで入れると9つの読み聞かせグループがあって、それぞれの考えや想いを持っていることを尊重し、大きなグループにしていないそうです。よみきかせカーニバルでは、もちろん「絵本の会 よむよむ」も参加し、各グループがリレー式で読み聞かせをするのだそうです。こまわりの効くグループの存在が那智勝浦町の特徴だと話してくれました。県下一の源泉数の温泉宿泊客を考慮してか、利用カードは誰でも作れます。

本にはカメレオンコードが張られていました。決して新しい本ばかりではありませんが、面白かったのは、本屋大賞のコーナーに、職員お手製の本屋大賞の読破手帖が置いてあったことです。今までの本屋大賞の本がずらりと紹介されています。読書手帳は話題になりますが、こんなひと手間をかける図書館もあります。本屋大賞の受賞本も以前は普通の書架に配架されたまま印を付けて紹介していただけでしたが、2020年に展示コーナー(歴代の受賞本とその年の受賞本)を作り、まとめた際に作成したそうです。

教育長や生涯学習課長から、「絵本の読み聞かせ活動は盛んだが、そこから小学生や中学生の読書や図書館の利用へどうつなげていくのかが課題」と聞かされ、ビブリオバトルや夜の図書館活動などの例を紹介しましたが、皆さんの中で、アイデアをお持ちの方がいらしたら、教えてください。

館長からは、「3階へのバリアフリーリフトや目の不自由な方へのサービスなど、課題が山積です。」と後日メールをいただきました。本当に図書館の活用を考えていらっしゃるのだなあと感じました。

見学を終えて

新宮市も那智勝浦町も、熊野古道につながる霊場のまち。

今回の旅は、7月14日の「那智の扇祭り(注4)」見学が目的でした。高さ6mの12体の扇神輿を、御滝の参道にて重さ50㎏~60㎏の十二本の大松明でお迎えし、その炎で清める神事は日本三大火祭りのひとつ。重さ50㎏以上もある大松明の炎が参道いっぱいに乱舞する姿は圧巻でした。

新宮市にも火祭りがあります。2月6日、白装束に荒縄を締めた男たちが、暗闇のなか松明を片手に急峻な石段を駆け下りる神倉神社の「御燈祭り(注5)」。私たちもやっと登ったあの神倉神社の急な石段を一斉に駆け降りるのです。

見どころは、ほかにもたくさんあるまちです。歴史ある2つのまちの図書館に立ち寄った後に観光すると、また見え方が違うかもしれません。緩く温もりのある2つの図書館が迎えてくれます。

図書館つれづれ

執筆者:ライブラリーコーディネーター
高野 一枝(たかの かずえ)氏

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