図書館総合展カンファレンスin機械振興会館
図書館つれづれ [第106回]
2023年3月

執筆者:ライブラリーコーディネーター
    高野 一枝(たかの かずえ)氏

はじめに

2022年11月、久々にリアルで開催された、「図書館総合展カンファレンスin機械振興会館」に参加してきました。本当に3年ぶりに多くの方にお会いすることができました。

今回は、Zoomとリアルの同時開催となった図書館総合展イベントの紹介です。

第1部  東京都港区図書館の事例報告(11:00~12:00)

Webコラム第96回(注1)でもお伝えしましたが、港区内の図書館の結束は固く、5館の専門図書館の紹介がありました。

三康文化研究所附属三康図書館(注2)

発表者の新屋さんが、利用率が急激に上昇した理由を発表。何よりプレゼン技術が上達していたのにびっくりで、来場していた連携イベントを行った野球殿堂博物館の方々を挙手させてアピールするサービスまでつきました。

公益財団法人日本交通公社・旅の図書館(注3)

こちらも第96回でお伝えしました。コロナ禍で利用制限をかけています。

人権ライブラリー/公益財団法人人権教育啓発推進センター(注4)

法務省から委託を受けて運営する人権に関する図書・映像資料・情報などを収集・提供している専門図書館です。毎月第3水曜日には上映会が開かれます。貸出もしていて、UD機器体験コーナーも面白そうです。

一般財団法人 日本航空協会航空図書館(注5)

洋書・和書を問わず航空宇宙に関わる図書を収蔵しています。利用者の様々な疑問や、研究調査、進路相談、取材協力等にも対応します。アメリカ統治下の時は活動できなかったとか。貸出レシートが搭乗券風でとてもおしゃれ。日比谷図書文化館との連携や、NHK朝ドラ「舞いあがれ!」のエピソードも紹介されました。

一般財団法人機械振興協会 BICライブラリ(注6)

専門図書館の横断検索「dlib(ディープライブラリープロジェクト)」(以下、dlib)に私も当初から関わったので、コラムの登場回数も多くなります。今年はライブラリアンシップ賞を受賞。dlibは開設当時の8館から160館に成長しました。

第2部  基調講演(14:00~15:00)

お二人の基調講演がありました。

1)淺野隆夫氏(札幌市中央図書館)

Webコラム第82回(注7)などでもおなじみの浅野さんの話は、いつもニコニコしながら話す割には芯があって聞き逃せない言葉が続きます。今回のテーマは挑戦。コロナ前後で起こった変化に電子書籍の増加をあげ、図書館が「場」である意味、「司書」がいる意味を問いかけました。札幌市中央図書館では「課題解決型」ではなく「課題明確型」図書館を目指し、「レファレンス」をやめて「リサーチセンター&無料相談室」と改め、「はたらくをらくにする」、「気軽に寄れて頼りになる」、「仕事から私事へ」など分かりやすいキャッチコピーを掲げています。全ては、働く人を支援する3つの挑戦(Work、Life、Art)の想いでテーマに沿った棚づくりをしていますが、小説は置かず、本の貸出もしていません。「いつまで地球全体を相手にするんですか?」の問いかけに、目の前の利用者に寄り添う姿を感じました。そんな司書の工夫が利用者にも届き、利用者からの「税金を払っていてよかった!」の感想は一番のご褒美です。イベントは、「必ず本棚と連携する」約束さえ守れば、自由に行うことができます。

これからの図書館が求められるものについて、幾つかキーワードがあげられました。

  • 文化的体験・体感
  • 思いがけない本との出合い
  • 自ら学ぶ 何を借りるかではなく、その情報から何を身に着けるのか
  • Unlearn → 学びなおし

「人生、検索だけで間に合っていますか?」と、皆さんに問いかけた浅野さんには、新しい部署で次のステップのための新たな挑戦が始まります。

2)水野裕志氏(元石川県参与)

水野氏は2022年4月で退職をされた、6年前から新しい石川県立図書館の基本構想から開館まで兼務された行政マン。図書館の仕事が最後の仕事でした。総務畑が長く、ものごとを外から客観的に見る習性が身についているので、司書の方々と見方がおのずと違います。お話は、一貫して行政的立場から見た図書館像の話でした。

以前の県立図書館は、生涯学習とセットになった、当時では先駆的な図書館だったそうです。とはいえ、当時とは社会も大きく変わっています。基本構想の段階で委員会を作り、「新しい図書館をどういう図書館にするか?」を検討しました。第1回目は、図書館の歴史の勉強会を開催し、知事も最後まで聴講し、図書館のこれまでの変化を理解しました。担当者は、奈良県立図書館や明治大学をはじめ、北欧やイギリス、シンガポールなどの図書館を見学し、報告書を作成し情報を共有しました。国内の図書館は知事も見学されたのだそうな。意気込みも違うし、そんな研修予算があるのですね。図書館の評価を平均値で行う考え方はやめて、図書館を構築していく中でハードやソフトについて段階ごとに目標設定をし、段階ごとに必要な人材体制を作りました。

ハード整備

建物もので人を惹きつけるのはせいぜい10年。大事なのは関わる人。丸投げをせずに、建築がわかる人を投入し、土木営繕課も協力し、司書も意見を言える環境を作りました。「自分たちの図書館を作る」という気持ちがまず大事。システムとも連動し、システムはベンダロックをかけない方針を固めました。

新サービス

県立図書館では珍しいテーマ別配架を行っています。第3の場としてのコミュニケーションスペースも充実しています。

運営サービス

図書館の所管は知事局へ移し、他の部署との連携を取りやすくし、予算も取りやすい縦割り体制です。窓口などの定型業務は委託しています。

パネルディスカッション

登壇者の新屋さん、結城さん、淺野さん、水野氏に司会者の関乃里子氏(図書館総合展運営委員会)が加わり、意見交換がありました。水野氏を除けば知人ばかり。若い新屋さんを浅野さんがにこやかに諭す姿は何とも微笑ましく、司会者が、「新屋さん、何のメモを取っているの?」など、会場の笑いの反応も全てがアットホームでした。もしかしたら、登壇者をあまり知らない方は、この雰囲気に居心地の悪さを感じ戸惑ったかもしれません。そんな方がいたら申し訳なかったですが、リアルに会えたことを、素直にみんなで喜んだ会場でした。

ここでも、「人が大事」が強調されました。意識改革を大きく掲げなくても、笑顔を増やし、段ボールを運んだり一緒に行動したりしていく中で、スキルもセンスも日常の仕事の中で気づいていくといいます。何かを大きく変えるのではなく、目の前の一歩を見つめて行動する姿に共感を覚えました。

水野氏から、「行政マンは辞令1枚で動かされるが、優秀な専門家は優秀な行政マンになれる」とのエールもありました。

今回のテーマは、「連携と挑戦」。一人でできることには限りがあります。血気盛んな若い新屋さんに、浅野さんの掛けたエールが印象に残りました。「一人でやるのではなく、自分と同じマインドの人をゆるゆると探す。1年目無視されるかも。2年目批判されるかも。それでも3年すれば地味に結果がついてくる」。そのためにも、自分の中で何をしたいのか明確にし、やり方は戦略を練る。挑戦は負荷がかかるけど、やらなければ得られないものがあります。小さなことでもよいからコツコツと大切に。皆さんは、この言葉をどんなふうに受け止めますか?

専門図書館協会の事務局長をされていた亡き鈴木さんが言われた言葉「小さな専門図書館が集まると大きな総合図書館になるから」。専門図書館と公共図書館の交流や連携も足元を見つめて一歩ずつと感じた図書館総合展カンファレンスでした。

図書館つれづれ

執筆者:ライブラリーコーディネーター
高野 一枝(たかの かずえ)氏

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